ゴールデンウィークとシルバーウィークの「ゴールデン」と「シルバー」は、なぜ、文法的に対になっていないのか?

英語には、素材を表す名詞に「-en」という語尾をつけて形容詞にする古いパターンがあります。

gold(金)に対する golden(金製の)、wood(木)に対する wooden(木製の)がその代表例です。

このルールに従うなら、silver(銀)の形容詞形は本来「silvern」になるはずでした。

実際に中世の英語にはsilvernという言葉が存在していましたが、現代英語では詩の中などを除いてほとんど使われなくなっています。

昭和26年、大映専務の松山英夫氏が映画の宣伝のために「ゴールデンウィーク」という言葉を作ったとき、すでに定着していた形容詞goldenをそのまま借用しました。

その何十年も後に生まれた「シルバーウィーク」は、すでに廃れていたsilvernではなく、現代英語で普通に使われる名詞silverをそのまま形容詞的に転用しています。

生まれた時代も、文法的な由来もまったく違う二つの言葉が、語感の良さだけを頼りに対にされてしまった。これが、このねじれの正体です。

ちなみに金・銀・銅メダルの英語表記(gold medal/silver medal/bronze medal)は、いずれも金属名を名詞のまま重ねる、英語として最も standard な形です。golden weekのgolden採用は、この標準パターンから外れているからこそ目立つ例外だと言えます。


こうしたズレは、実はいたるところにある

日本語の中には、英語のようでいて、よく見ると英語のルールから外れている言葉がたくさんあります。

「アンダースコア」を「アンダーバー」と呼んでしまうこと、「コピー」の発音が実際の英語とはかなり違うこと、車の「ハンドル」が英語のsteering wheelとはまったく別の単語であること。

これらは単なる間違いというより、日本語が英語を取り込む過程で、独自のルールに沿って形を変えてしまった結果です。

この記事では、そうした「カタカナ英語のねじれ」を4つのタイプに分けて整理し、それぞれの具体例を一覧にしてみます。


「カタカナ英語」には、実は4つの正体がある

ひとくちに「カタカナ英語」と言っても、ズレが生まれる原因はまったく違います。

発音がなまって伝わったもの

もともとの発音を、日本語の音の種類に合わせて簡略化した結果、原音とは違う音で定着したケースです。

日本で独自に生まれた言葉(和製英語)

英語の単語を組み合わせて、英語圏には存在しない、日本独自の意味や名前を作ってしまったケースです。

文法的な成り立ちがねじれているもの

言葉自体は英語由来でも、その組み合わせ方や活用のさせ方が、英語の文法ルールから外れているケースです。

ローマ字読みがそのまま定着したもの

英語の発音を聞いて真似たのではなく、つづり字を日本語のローマ字読みのルールで読んでしまったことで生まれたズレです。


なぜ、こうしたズレは生まれるのか

一番大きな理由は、外来語の多くが「耳で聞いて」ではなく「文字を見て」輸入されたことです。

来日した外国人との会話からではなく、輸入された書物や製品のつづりを見て、日本語としてどう読むかを独自に決めてしまったケースが少なくありません。

発音を聞いて真似たのではなく、文字を見て読み方を決めてしまった。これが、ローマ字読みのズレが生まれる一番の原因です。

もう一つの理由は、そもそも英語が発信元とは限らないということです。

たとえば「カオス」はドイツ語のChaos(発音は「カーオス」に近い)から来ており、英語のchaos(ケイオス)とは輸入元自体が違います。

明治期の日本は、哲学や医学、化学といった学問用語を、当時学術の中心地だったドイツ語圏から数多く取り入れました。

アレルギー、ノイローゼ、カルテといった言葉も同じ理由で、英語圏では通じにくい発音のまま定着しています。

そして最後の理由は、外来語が「外国人と会話するための言葉」ではなく「日本語話者同士が使うための、新しい日本語の語彙」として取り込まれたということです。

正確さより、多くの人が同じ形を共有できることのほうが、言葉としては優先されてしまうのです。

なお、以降の表で示す「ネイティブ発音に近い表記」は、日本の英語教育・メディアで最も参照される米国英語(General American)の発音を基準としています。


発音がなまって伝わったもの

カタカナ表記 英語 ネイティブ発音に近い表記(目安)
コピー copy カピィ
ボリューム volume ヴァリューム
バニラ vanilla ヴァニラ
ソファ sofa ソウファ
タオル towel タゥオル
アイロン iron アイアン
エレベーター elevator エレヴェイター
ラジオ radio レイディオウ
ピアノ piano ピアノウ(第2音節にアクセント)
ギター guitar ギター(第2音節にアクセント)
バイオリン violin ヴァイオリン(最後にアクセント)
マラソン marathon マラゾン
アルバム album アルバム(第1音節にアクセント)
カレンダー calendar キャレンダー
シャワー shower シャウアー
タイヤ tire タイアー
エンジン engine エンジン(第1音節にアクセント)
ハンカチ handkerchief ハンカチフ
アスファルト asphalt アスファルト(第2音節が弱い)
プラスチック plastic プラスティック
チョコレート chocolate チョクレット(2音節に近い)
レストラン restaurant レストラント
ビタミン vitamin (米)ヴァイタミン
ソーセージ sausage ソーセッジ

和製英語・名称の違い

カタカナ表記 日本での意味 米国での実際の呼び方
ハンドル 車のステアリング steering wheel(スティアリング・ホイール)
コンセント 電源の差込口 outlet(アウトレット)
ノートパソコン ノート型PC laptop(ラップトップ)
ガソリンスタンド 給油所 gas station(ギャス・ステイション)
バイキング 食べ放題形式の食事 buffet(バフェイ)
マンション 鉄筋コンクリート造の集合住宅(分譲が中心) condominium(コンドミニアム、通称コンドー)(賃貸の場合はapartment。英語のmansionは「豪邸」の意で、日本のマンションとは異なる)
ホッチキス 紙を綴じる文房具 stapler(ステイプラー)
シャープペンシル 芯を繰り出す筆記具 mechanical pencil(メカニカル・ペンシル)
フリーダイヤル 無料通話番号 toll-free number(トールフリー・ナンバー)
サラリーマン 会社員 office worker(オフィス・ワーカー)
ペーパードライバー 免許はあるが運転しない人 (対応する定着した呼称なし)
モーニングコール ホテルの起床電話 wake-up call(ウェイクアップ・コール)
ベビーカー 乳母車 stroller(ストローラー)
クーラー 冷房機器 air conditioner(エア・コンディショナー)
コインランドリー 硬貨式の洗濯施設 laundromat(ローンドロマット)
ガードマン 警備員 security guard(セキュリティ・ガード)
サイン 有名人の署名 autograph(オートグラフ)
スキンシップ 肌のふれあい physical affection(フィジカル・アフェクション)
テンション 気分の高まり excitement(イグザイトメント)(英語のtensionは緊張の意)
クレーム 苦情 complaint(コンプレイント)(英語のclaimは主張・請求の意)
マイペース 自分のリズムで行うこと at one’s own pace(アット・ワンズ・オウン・ペイス)
リストラ 人員削減 layoff(レイオフ)
バージョンアップ 機能の更新 update/upgrade(アップデイト/アップグレイド)
オーダーメイド 受注生産・特注品 custom-made(カスタムメイド)
バスルーム 浴槽のある「風呂場」限定(トイレは別室) bathroom(バスルーム)(トイレを指す婉曲表現としても使われ、浴槽の有無を問わない)
ハイヤー 運転手付きの貸切乗用車(業態名) chauffeured car(ショーファード・カー)(英語hireは「雇う・賃借りする」の動詞で、車種名としては使われない)

文法的なねじれ

表現 ねじれの内容
ゴールデンウィーク/シルバーウィーク golden(gold+-en)に対し、本来の対であるsilvernは廃語のため、現代語のsilverがそのまま使われている
アイスコーヒー/ホットコーヒー 本来はiced coffee(過去分詞iceの-ed)だが-edが脱落し、活用不要のhotとの間に扱いの差が生じている
スクランブルエッグ/フライドポテト/ミックスジュース 「動詞の過去分詞+名詞」という同じ規則が、scrambled→スクランブル・mixed→ミックスでは-edが脱落し、fried→フライドでは残るなど、語によって不統一に適用されている
アットホーム 前置詞句at homeを、日本語の「な形容詞」として転用している
バーゲンセール bargainに「お買い得な販売」の意味が含まれるため、本来は重複表現にあたる
サボる フランス語sabotageの語幹に、日本語の動詞語尾「る」を付けて動詞化している
ダブる 英語double+「る」
トラブる 英語trouble+「る」
メモる 英語memo+「る」
ミスる 英語miss+「る」
パニクる 英語panic+「る」
ぐぐる 固有名詞google+「る」
コピる 英語copy+「る」
バズる 英語buzz+「る」

ローマ字読み vs ネイティブ発音

カタカナ表記 ローマ字読みの発音 ネイティブ発音に近い表記
トマト トマト tomato(トメイトウ)
バナナ バナナ banana(バナぁナ/第2音節にアクセント)
カメラ カメラ camera(キャムラ)
データ ダタ data(デイタ)
ビデオ ビデオ video(ヴィディオウ)
ホテル ホテル hotel(ホウテル)
モデル モデル model(マドゥル)
サラダ サラダ salad(サラッド)
オレンジ オレンジ orange(オーレンジ)
ドラマ ドラマ drama(ドラーマ)
レモン レモン lemon(レマン)
メロン メロン melon(メラン)
パズル パズル puzzle(パズゥ)
スタジオ スタジオ studio(ステューディオウ)
ラベル ラベル label(レイブル)
パネル パネル panel(パヌル)
コットン コットン cotton(カットゥン)
バター バター butter(バラー)
ウォーター ウォーター water(ワラー)
アニマル アニマル animal(アニムル)
キャビネット キャビネット cabinet(キャブネット)
ロボット ロボット robot(ロウバット)
マナー マナー manner(マナー/子音がより短い)
ソーダ ソーダ soda(ソウダ)

これからへの視点

こうしたズレは、間違いというより、日本語が英語をどう消化してきたかの記録のようなものです。

正しい発音や意味を知ること自体も面白いですが、それ以上に「なぜこの形に落ち着いたのか」を考えることのほうが、言葉への理解を深めてくれます。

次に何気なく使っているカタカナ語に出会ったときは、その言葉がどんな経路をたどって今の形になったのか、少し想像してみてください。


参考資料


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