なぜ今、あなたの会社の「らしさ」を言葉にする必要があるのか?

現代は、モノやサービスが溢れ、あらゆる情報が瞬時に世界を駆け巡る時代です。

消費者の価値観は多様化し、少し前まで通用していた「良いモノを作れば売れる」という方程式は、もはや過去のものとなりました。

特に、リソースに限りある中小零細企業にとっては、大企業と同じ土俵で価格や物量で勝負するのは得策ではありません。

では、どこで戦うべきなのでしょうか。その答えは、他社には決して真似できない、その企業だけが持つ独自の価値、すなわち「らしさ」にあります。

多くの経営者様や担当者様が、自社の強みや魅力を感覚的には理解されています。

「うちは技術力には自信がある」
「お客様一人ひとりに寄り添う姿勢が強みだ」
「創業時から変わらない、この製品へのこだわりがある」
そういった熱い想いや、現場に根付く暗黙知。

それこそが、企業の魂であり、遺伝子とも呼べる「DNA」です。

しかし、その「らしさ」が、社内で働く人々、そして大切なお客様に、明確な言葉として伝わっているでしょうか。

感覚や想いだけでは、属人的なものとなり、組織全体に浸透させることも、社外に一貫したメッセージとして発信することも困難です。

漠然とした「らしさ」を、誰もが理解し共感できる「言葉」に落とし込むこと。

この「言語化」というプロセスこそが、強力なブランドを築き、持続的な成長を遂げるための第一歩です。

言語化された「らしさ」は、デザインやマーケティング活動における揺るぎない「北極星」となり、あらゆる意思決定の拠り所となります。

それは、ウェブサイトの色使い一つ、営業資料の言葉選び一つ、社員の顧客対応一つに至るまで、すべての企業活動に一貫した「魂」を吹き込むのです。

本記事では、この「らしさ」の言語化から始め、企業のDNAを根幹としたデザインコンセプトをいかに開発していくか、その具体的なプロセスと重要性、そして企業経営にもたらす価値について、深く掘り下げていきます。

AIの活用といった新しいアプローチにも触れながら、皆様の会社が持つ「見えない価値」を「伝わる力」に変えるためのヒントをお届けします。


第1章:「らしさ」の正体を探る – 企業のDNAを構成する要素とは

「自社らしさ」とは、一体何なのでしょうか。

それは、単なる製品やサービスのスペックではありません。

流行りの経営理論から借りてきた言葉でもありません。

企業のDNAとは、その組織が生まれ、成長してきた歴史の中に脈々と受け継がれてきた、独自の価値観や信念、行動様式の集合体です。

まずは、そのDNAを構成する要素を解き明かしていきましょう。

1-1. ミッション・ビジョン・バリューとの関係性

企業理念を語る際によく用いられる「ミッション」「ビジョン」「バリュー」という言葉があります。

これらは企業のDNAと密接に関わっていますが、少しずつニュアンスが異なります。

  • ミッション(Mission):企業の社会における存在意義や果たすべき使命。なぜ我々は存在するのか、という根源的な問いへの答えです。
  • ビジョン(Vision):ミッションを遂行した結果、実現したい未来の姿。企業が目指す中長期的な目標や理想像です。
  • バリュー(Value):ミッションを果たし、ビジョンを達成するために、組織のメンバーが共有すべき価値観や行動指針です。

これらの言語化された理念もDNAの重要な一部です。

しかし、企業のDNAは、これら明文化された言葉の裏にある「行間」や、言葉にはなっていない「暗黙の了解」にこそ、より色濃く宿っている場合があります。

例えば、「お客様第一」というバリューを掲げる企業は多いですが、その解釈は企業によって様々です。

ある企業では「お客様のどんな要望にも応えること」かもしれませんし、別の企業では「お客様の未来を考え、時には厳しい進言もすること」かもしれません。

この解釈の違いこそが、その企業の「らしさ」なのです。

1-2. 創業の物語と歴史の中に眠る原石

企業のDNAを探る上で、最も豊かな鉱脈となるのが「創業の物語」と「これまでの歴史」です。

  • 創業者の想い:なぜ、この事業を始めようと思ったのか。どんな社会課題を解決したかったのか。そこには、企業の原点となる情熱が凝縮されています。
  • ターニングポイント:経営の危機、事業の拡大、大きな失敗。そうした重要な局面で、会社はどのような決断を下し、どう乗り越えてきたのか。その選択の背景には、その企業が何を大切にしているかが如実に表れます。
  • 社名の由来やロゴに込められた意味:意外と見過ごされがちですが、社名や創業時から使われているシンボルには、創業者の願いや事業の核心が込められていることが少なくありません。

ある地方の小さな製造業の会社では、創業者が戦後の混乱期に「地域の人々の生活を少しでも豊かにしたい」という一心で、たった一台の中古機械から事業を始めた、という物語がありました。

その「地域への貢献」という想いは、明文化されていなくとも、長年にわたり製品開発や顧客対応の根底に流れ続ける、まさに企業のDNAそのものでした。

1-3. 組織文化と「当たり前」に宿るDNA

企業のDNAは、日々の業務の中に存在する「当たり前」の光景にも宿っています。

  • コミュニケーションのスタイル:風通しが良く、役職に関係なく意見を言い合える文化か。それとも、トップダウンで規律を重んじる文化か。
  • 評価される人材像:挑戦を称賛する文化か、堅実さを評価する文化か。どんな行動が「良い仕事」として認められるか。
  • 職場の雰囲気:社員同士の会話から生まれる言葉遣いや、オフィスに漂う空気感。来客者が何となく感じる「この会社、いい感じだな」という直感。
  • 顧客やパートナーとの関係性:単なる取引相手として接するのか、共に未来を創るパートナーとして接するのか。

これらの「当たり前」は、外部の人間から見れば非常にユニークな企業文化として映ります。

しかし、中にいると当たり前すぎて、その価値に気づきにくいものです。

だからこそ、客観的な視点で自社の組織文化を棚卸しし、そこに潜む「らしさ」の源泉を掘り起こす作業が不可欠なのです。

企業のDNAとは、これら創業の想い、歴史、組織文化といった要素が複雑に絡み合って形成される、唯一無二の結晶なのです。

次章では、この見えない結晶を「言葉」という光で照らし出すプロセスについて解説していきます。


第2章:見えない価値を「言葉」にする – らしさを言語化する具体的プロセス

企業のDNA、すなわち「らしさ」の輪郭が見えてきたら、次はいよいよそれを具体的な「言葉」に結晶化させていくフェーズです。

この言語化のプロセスは、単に美しい言葉を探す作業ではありません。

組織の記憶を呼び覚まし、価値観を共有し、未来への羅針盤を創り上げる、極めて戦略的な活動です。

ここでは、その具体的な進め方と、成功に導くためのポイントを解説します。

2-1. 準備:誰を巻き込み、何を集めるか

言語化のプロセスを始める前に、周到な準備が成功の鍵を握ります。

まず重要なのが、「誰を巻き込むか」です。

このプロジェクトは、経営層やマーケティング担当者だけで進めるべきではありません。

企業のDNAは組織の隅々に宿っているため、多様な立場の人々を巻き込むことが不可欠です。

  • 経営層:創業の想いや経営の哲学を最も深く理解し、最終的な意思決定を担う存在です。
  • 古参の社員:企業の歴史や変遷を肌で知る「生き字引」。数々のターニングポイントの裏話など、貴重な情報を持っています。
  • 若手・中堅社員:現在の組織文化を最も体現し、未来の会社を担う世代。彼らが感じる「自社らしさ」は、現在地を知る上で重要です。
  • 様々な部署の担当者:営業、開発、製造、バックオフィスなど、異なる視点から見ることで、多角的で偏りのない「らしさ」が浮かび上がります。

次に、「何を集めるか」です。議論を深めるための「素材」を事前に収集しておきましょう。

  • 既存の資料:会社案内、社史、過去の広報物、経営計画書など。
  • 顧客の声:アンケートの回答、レビューサイトの書き込み、お客様からの感謝の手紙など。
  • 社員の声:社内アンケートや日報、過去の社内報など。
  • 象徴的な製品やサービス:会社の歴史を物語る製品や、ロングセラー商品。

これらの「人」と「情報」を集めることが、実りある言語化プロセスの土台となります。

2-2. 実践:ワークショップでDNAを抽出する

関係者と資料が集まったら、いよいよDNAを抽出するためのワークショップを実施します。

会議室での堅苦しい議論ではなく、全員がリラックスして本音で語り合える場づくりが重要です。

付箋やホワイトボードを使い、アイデアを可視化しながら進めるのが効果的です。

ステップ1:発散 – 「らしさ」の欠片をとにかく出す

まずは、質より量を重視して、自社にまつわるキーワードやエピソードを洗いざらい書き出していきます。

  • 「私たちの会社を一言で表すなら、どんな言葉?」
  • 「お客様から言われて一番嬉しかった言葉は?」
  • 「入社して『うちの会社、面白いな』と感じた瞬間は?」
  • 「他社には絶対に真似できない、私たちの強みは何だろう?」
  • 「もし私たちの会社が人間だったら、どんな性格だと思う?」

こうした問いを投げかけ、参加者一人ひとりの頭の中にある「らしさの欠片」を付箋に書き出してもらい、壁に貼り出していきます。

ここでは批判や評価は一切せず、自由な発想を歓迎する雰囲気を作りましょう。

ステップ2:グルーピング – 欠片を繋ぎ、意味を見出す

壁一面に貼り出された付箋を、参加者全員で眺めながら、似たような意味合いを持つものや、関連性の高いものをグループにまとめていきます。

この共同作業を通じて、「技術力」というグループ、「地域密着」というグループ、「挑戦心」というグループなど、いくつかの大きな塊が見えてきます。

この時、なぜそのようにグループ化したのか、その背景にある意味を話し合うことで、より深いレベルでの共通認識が生まれます。

ステップ3:統合と深化 – キーワードを磨き上げる

グルーピングによって見えてきた塊に、それぞれ名前をつけていきます。

これが「らしさ」を表現するキーワードの核となります。

例えば、「技術」というグループからは、「職人気質」「探求心」「精密さ」といった言葉が生まれるかもしれません。

「顧客対応」というグループからは、「寄り添う」「おせっかい」「家族的」といった言葉が見つかるかもしれません。

ここで重要なのは、ありきたりな言葉で終わらせないことです。

例えば「誠実」というキーワードが出たとしたら、「私たちにとっての『誠実』とは、具体的にどういう行動を指すのか?」と問いを深めます。

「嘘をつかないこと」なのか、「納期を絶対守ること」なのか、「できないことはできないと正直に言うこと」なのか。

その企業ならではの解釈を明らかにすることで、言葉に血が通い始めます。

2-3. AIの活用:客観的な視点を取り入れる

近年、この言語化のプロセスにおいて、AI、特にテキストマイニング技術の活用が注目されています。

AIは、人間では処理しきれない膨大な量のテキストデータから、客観的な傾向やインサイトを抽出するのを得意としています。

  • 顧客の声の分析:アンケートの自由回答や、ウェブ上の口コミ、コールセンターの応対履歴といった大量のテキストデータをAIに分析させます。これにより、顧客がどのような言葉で自社を評価しているのか、どんな点に価値を感じているのかを、頻出単語や単語同士の関連性(共起ネットワーク)から客観的に把握できます。
  • 社内文書の分析:日報や議事録、社内チャットのログなどを分析することで、社内でよく使われる言葉や、特定のプロジェクトで重視されている価値観などを可視化できます。

例えば、ある食品メーカーが顧客アンケートをAIで分析したところ、「懐かしい」「おばあちゃんの味」「ほっとする」といった言葉が頻繁に使われていることが分かりました。

これは、社内では「素材へのこだわり」や「製法」を強みだと認識していたのに対し、顧客は製品に対して「情緒的な安心感」という価値を感じていた、という新たな発見に繋がりました。

AIはあくまでサポーターであり、最終的な判断は人間が下すべきです。

しかし、AIが提供する客観的なデータは、社内の思い込みや偏見を取り払い、議論をより豊かなものにしてくれる強力な武器となります。

こうして様々な角度から抽出され、磨き上げられた言葉たち。

それらが、企業のDNAを雄弁に物語る「コア・キーワード」となるのです。


第3章:言葉を「カタチ」に – DNAを表現するデザインコンセプト開発

「らしさ」が言葉になったら、次はその言葉を道しるべに、目に見える「カタチ」、すなわちデザインへと翻訳していく旅が始まります。

この「言語」から「ビジュアル」への翻訳プロセスこそが、デザインコンセプト開発の核心です。

言語化された企業のDNAは、デザインに一貫性と説得力をもたらす羅針盤となります。ここでは、抽象的なキーワードを、具体的なデザイン要素に落とし込んでいく魔法のようなプロセスをご紹介します。

3-1. デザインコンセプトとは何か?

デザインコンセプトとは、単に「おしゃれな感じ」「かっこいいイメージ」といった漠然としたものではありません。

言語化された企業のDNA(コア・キーワード)に基づき、「誰に」「何を」「どのように」伝えるかを規定した、デザイン全体の設計思想です。

それは、これから生み出されるすべてのクリエイティブ(ウェブサイト、ロゴ、パンフレット、名刺、店舗デザインなど)の「憲法」のような役割を果たします。

優れたデザインコンセプトがあれば、

  • デザインの方向性がブレなくなる
  • 関係者間の認識のズレを防ぎ、円滑なコミュニケーションを促進する
  • デザインの良し悪しを判断する客観的な基準ができる
  • アウトプットに一貫性が生まれ、ブランドイメージが強化される

といった多くのメリットが生まれます。

逆にコンセプトが曖昧なままデザイン制作を進めると、
「社長の好みでデザインが二転三転する」
「担当者によって言うことが違い、デザイナーが混乱する」
「出来上がったものがバラバラで、統一感がない」
といった事態に陥りがちです。

3-2. キーワードからビジュアル要素への翻訳

では、具体的にどのようにして「言葉」を「カタチ」に翻訳していくのでしょうか。

第2章で抽出した「コア・キーワード」を、一つひとつデザインの言語に置き換えていきます。

例えば、ある地域密着型の工務店が、自社のDNAを言語化した結果、以下の3つのコア・キーワードが見つかったとします。

  • 誠実:嘘のない正直な仕事、堅実な技術力
  • 温もり:家族に寄り添うような温かい関係性、木の家の心地よさ
  • 創造:お客様の夢を形にする設計力、新しいライフスタイルの提案

これらのキーワードを、デザインを構成する各要素に翻訳していきます。

色(カラー)

  • 誠実:信頼感や真面目さを感じさせる、落ち着いたネイビーや深みのあるグレー
  • 温もり:自然の温かみや安心感を伝える、生成り色やアースカラー、暖色系のオレンジ
  • 創造:知性や先進性を感じさせつつも冷たくならない、アクセントとしてのティールブルーや知的なイエロー

これらの色を組み合わせ、メインカラー、サブカラー、アクセントカラーの比率を決めていきます。

形(シェイプ)

  • 誠実:安定感や規律正しさを表現する、直線や角の取れた四角形
  • 温もり:優しさや柔らかさを伝える、手書きのような曲線や角の丸い図形
  • 創造:躍動感やひらめきを感じさせる、左右非対称なレイアウトや自由なフォルム

ロゴマークの形状や、ウェブサイトのボタンの形、写真の切り抜き方(トリミング)などに反映させます。

書体(タイポグラフィ)

  • 誠実:可読性が高く、伝統や信頼を感じさせる明朝体や、安定感のあるゴシック体
  • 温もり:親しみやすさや手仕事感を伝える、少し丸みを帯びた書体や手書き風フォント
  • 創造:洗練さや独自性を表現する、少し個性的なサンセリフ体や欧文書体

見出しと本文でフォントを使い分けるなど、その役割に応じて最適な書体を選択します。

写真・イラスト(トーン&マナー)

  • 誠実:ごまかしのない、細部までクリアに見えるシャープな写真
  • 温もり:家族の笑顔や、木漏れ日が差し込む室内の写真など、暖色系で柔らかな光を感じる写真
  • 創造:広角レンズを使ったダイナミックな構図や、お客様のライフスタイルが垣間見えるようなスナップ写真

写真の「何を写すか」だけでなく、「どのように写すか(色味、明るさ、構図など)」まで規定することで、世界観に一貫性が生まれます。

3-3. コンセプトボードで世界観を可視化する

こうして翻訳されたビジュアル要素を集め、一枚のボードにまとめたものが「コンセプトボード(ムードボード)」です。

コンセプトボードは、これから作り上げるデザインの世界観を、誰もが一目で理解できるように可視化したものです。

コンセプトボードには、

  • コア・キーワード
  • コンセプトを説明するステートメント(短い文章)
  • メインとなるカラーパレット
  • 使用するフォントの見本
  • 世界観を象徴する写真やイラストの例
  • ロゴマークやキーとなる図形

などを配置します。

このボードがあることで、経営者、担当者、デザイナーといったすべての関係者が、同じ「完成予想図」を頭に描きながらプロジェクトを進めることができます。

「もっと温かい感じがいいな」といった曖昧なフィードバックではなく、「この写真のテイストは、ボードにある『温もり』の方向性とは少し違うので、もう少し光が柔らかいものにしましょう」といった、具体的で建設的な議論が可能になります。

言語化されたDNAが「理論」であるならば、デザインコンセプトはそれを実践するための「設計図」です。この設計図があるからこそ、感覚だけに頼らない、戦略的で力強いデザインを生み出すことができるのです。


第4章:デザインが経営を変える – コンセプトがもたらす揺るぎない価値

「らしさ」の言語化から生まれたデザインコンセプトは、単にウェブサイトやパンフレットを美しく見せるためだけのものではありません。

それは企業の根幹に深く関わり、経営そのものにポジティブな影響を与える、強力な「経営資源」となります。

デザインを単なるコストではなく、「未来への投資」として捉えることで、中小零細企業が持つポテンシャルを最大限に引き出すことができます。

ここでは、デザインコンセプトがもたらす具体的な経営的価値について解説します。

4-1. アウターブランディング:顧客に「選ばれる理由」を届ける

アウターブランディングとは、顧客や取引先、社会といった企業の外部に向けて、自社の価値を伝え、良好な関係を築く活動です。一貫したデザインコンセプトは、このアウターブランディングにおいて絶大な効果を発揮します。

  • ブランド認知度の向上:ロゴ、ウェブサイト、製品パッケージ、SNSの投稿画像など、顧客が触れるすべてのタッチポイントでデザインに一貫性があると、「あの色の会社」「あのマークの製品」といったように、人々の記憶に残りやすくなります。情報過多の現代において、まず「覚えてもらう」ことは、ビジネスのスタートラインに立つための必須条件です。
  • 信頼感と安心感の醸成:統一感のある洗練されたデザインは、企業が細部にまで気を配る、プロフェッショナルな組織であるという印象を与えます。これは、製品やサービスの品質に対する信頼感に直結し、顧客が安心して購買を決定するための後押しとなります。
  • 価格競争からの脱却:デザインによって企業の独自の価値や物語が伝わると、顧客は単なる機能や価格だけで比較するのではなく、「この会社が好きだから」「思想に共感するから」といった情緒的な理由で選ぶようになります。これにより、無用な価格競争に陥ることなく、適正な価格で価値を提供することが可能になります。

ある部品メーカーは、自社の強みである「精密さ」と「顧客への誠実さ」をコンセプトに、ウェブサイトやカタログのデザインを刷新しました。

その結果、技術的な問い合わせが増えただけでなく、海外からの引き合いも増加。「デザインが、我々の技術力を雄弁に語ってくれた」と経営者は語ります。

4-2. インナーブランディング:社員の誇りを育み、組織を強くする

インナーブランディングとは、社員に向けて企業理念やビジョンを浸透させ、エンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高める活動です。

企業の「らしさ」を最も深く理解し、体現すべきは、そこで働く社員に他なりません。

  • 理念の浸透と行動の促進:言語化され、デザインとして可視化された「らしさ」は、社員にとって自社が目指す方向を直感的に理解する助けとなります。「私たちの会社が大切にしているのは、こういうことなんだ」という共通認識が生まれ、日々の業務における判断基準となります。
  • 帰属意識とモチベーションの向上:自社が社会に対してどんな価値を提供しているのか、どんな「らしさ」を持つ誇るべき会社なのかを社員が実感することで、「この会社で働いていることが嬉しい」という誇り(シビックプライド)が生まれます。これは、仕事へのモチベーションを高め、生産性の向上に繋がります。
  • 採用力と定着率の強化:企業の「らしさ」が明確に発信されていると、その価値観に共感する人材が集まりやすくなります。給与や待遇といった条件面だけでなく、「この会社で働きたい」という想いを持った人材は、入社後のミスマッチが少なく、定着率も高くなる傾向があります。これは、人手不足に悩む多くの中小企業にとって、非常に大きなメリットです。

デザインコンセプトに基づいたオフィス空間のリニューアルや、DNAを物語るクレド(信条)カードの作成、統一感のある名刺や社内報など、インナーブランディングの手法は様々です。

社員が日々触れるものすべてに「らしさ」が宿ることで、組織の一体感は着実に醸成されていきます。

4-3. 経営の効率化:意思決定の「ものさし」を持つ

明確なデザインコンセプトは、日々の経営判断における強力な「ものさし」となります。

  • 意思決定の迅速化:新しい事業を始めるべきか、新しい広告を出すべきか、といった判断に迫られた際、「それは、私たちの『らしさ』に合致しているか?」という問いが、明確な判断基準となります。これにより、議論が発散することなく、迅速で的確な意思決定が可能になります。
  • コミュニケーションコストの削減:社内での企画会議や、外部の制作会社との打ち合わせにおいて、デザインコンセプトが共通言語として機能します。これにより、「言った言わない」の不毛なやり取りや、手戻りによる無駄な時間とコストを大幅に削減できます。
  • 長期的な視点の獲得デザインコンセプトは、目先の流行や短期的な売上に惑わされず、長期的な視点でブランド価値を育てていくための拠り所となります。「今はこれが流行っているから」という理由で安易にデザインを変えるのではなく、自社のDNAに根ざした一貫した姿勢を保つことが、結果として揺るぎないブランドを築くのです。

このように、企業のDNAから生まれたデザインコンセプトは、外には「選ばれる力」を、内には「組織の力」を、そして経営には「判断の力」をもたらします。

それは、変化の激しい時代を生き抜くための、企業の「体幹」を鍛えることに他ならないのです。


第5章:物語の力 – 「らしさ」が輝き始めた、二つの企業のストーリー

理論やプロセスを理解しても、実際に自社に当てはめて考えるのは難しいかもしれません。

そこで、ここでは架空の企業を例に、「らしさ」の言語化とデザインコンセプト開発が、どのように企業を変化させたのか、二つの物語をご紹介します。

自社の状況と重ね合わせながら、その可能性を感じ取っていただければ幸いです。

ストーリー1:事業承継の岐路に立った老舗和菓子店「〇〇堂」

【課題】伝統と革新の狭間で揺れるアイデンティティ

創業90年の老舗和菓子店「〇〇堂」。

先代から店を継いだ三代目のAさんは、大きな悩みを抱えていました。

先代から受け継いだ伝統の味を守りたいという想いがある一方で、客層の高齢化や若者の和菓子離れに危機感を覚え、新しい商品開発やオンラインでの販売にも挑戦したいと考えていました。

しかし、その想いは古くからの職人たちには「伝統を軽んじている」と映り、若手スタッフからは「もっと大胆に変えるべきだ」と突き上げられる始末。

社内の方向性はバラバラで、パッケージデザインも昔ながらのものと、Aさんが試作したモダンなものが混在し、店のブランドイメージは曖昧模糊としていました。

【プロセス】全社員で掘り起こした「〇〇堂らしさ」

この状況を打破するため、Aさんは外部の専門家を交え、全社員参加のワークショップを開催することを決意しました。

最初は乗り気でなかったベテラン職人も、店の歴史を語るセッションでは、創業者がどんな想いで菓子作りに向き合っていたか、昔の地域の様子などを生き生きと語り始めました。

若手スタッフは、SNSで自分たちが見つけた美しい和菓子の写真を見せながら、「〇〇堂ならもっと素敵なことができる」と熱弁しました。

議論を重ねる中で、彼らは一つの共通項に気づきました。

それは「季節の移ろいを、五感で味わう喜びを届ける」という、創業時から変わらない価値観でした。

春には桜の香り、夏には涼やかな水の音、秋には紅葉の色彩、冬には清らかな雪景色。

〇〇堂の菓子は、常に地域の自然と共にある、というDNAが浮かび上がってきたのです。

ここから、「季節を紡ぐ、手のひらの小宇宙」というコア・コンセプトが生まれました。

【変化】統一された世界観が、新たなファンを魅了

このコンセプトに基づき、デザインは一新されました。

  • ロゴ:伝統的な家紋のモチーフは残しつつ、洗練された線でリデザイン。
  • パッケージ:日本の伝統色をベースに、季節ごとに変わる限定パッケージを導入。素材には手触りの良い和紙を採用。
  • ウェブサイト:菓子の写真だけでなく、インスピレーションの源泉である地域の美しい風景写真を多用し、物語性を重視。
  • 店舗:内装に地元の木材を使い、季節の花を飾ることで、五感で「らしさ」を感じられる空間に。

デザインに一貫した世界観が生まれたことで、〇〇堂の魅力は新しい顧客層に届き始めました。

「パッケージが素敵だから」と手に取る若者や、ウェブサイトの物語に共感して遠方から訪れる観光客が増加。

何より大きな変化は、社員たちの意識でした。「自分たちは、ただお菓子を作っているのではない。

日本の美しい季節を、お客様に届けているのだ」という誇りが生まれ、職人と若手スタッフが一体となって新商品開発に取り組むようになったのです。

Aさんは、伝統と革新は対立するものではなく、「らしさ」という幹の上で共存できるのだと確信しました。

ストーリー2:急成長に潜む課題を抱えたITベンチャー「ネクスト〇〇〇〇社」

【課題】組織拡大に伴う、理念の希薄化

画期的な業務効率化ツールを開発し、設立5年で社員数が10名から100名へと急拡大したITベンチャー「ネクスト〇〇〇〇社」。

しかし、社長のBさんは、組織の急成長に一抹の不安を感じていました。

創業メンバーの間では「常識」だった「ユーザーの課題解決にとことんこだわる」「失敗を恐れず、まずやってみる」といったベンチャー精神が、新しく入社した社員たちにはなかなか浸透しないのです。

部署間の連携も悪化し、セクショナリズムが蔓延。顧客からは「最近、対応がマニュアル的になった」という声も聞こえ始めていました。

このままでは、成長のエンジンだったはずの「企業文化」が失われ、凡庸な会社になってしまうという危機感がありました。

【プロセス】AI分析と対話で見つけたDNA「最強の助っ人」

Bさんは、自社のDNAを言語化し、全社で共有する必要性を感じました。

そこで、まずAIによるテキストマイニングを導入。

顧客からの問い合わせメールや、社内のチャットツール、営業日報など、膨大なテキストデータを分析しました。

その結果、顧客からの感謝の言葉には「まるで専属のサポーターがいるよう」「かゆいところに手が届く」といった表現が多く、社内のポジティブな会話では「助かった!」「ナイス!」のような、互いの貢献を称え合う言葉が頻出していることが分かりました。

この客観的なデータを基に、各部署の代表者を集めたワークショップを実施。

「我々の価値は、ツールの機能そのものだけでなく、顧客に寄り添い、課題解決を『助ける』ことにあるのではないか?」という仮説をぶつけました。

議論は白熱し、最終的に彼らのDNAは「テクノロジーで、挑戦者の『最強の助っ人』になる」という言葉に結晶化しました。

それは、顧客にとっても、そして社員同士にとっても、最高のパートナーであろうとする姿勢を表す言葉でした。

【変化】「助っ人」の精神が浸透し、組織が再活性化

このコンセプトは、すぐにインナーブランディングへと展開されました。

  • クレドカード:「助っ人」としての行動指針を記したカードを全社員に配布。
  • 社内表彰制度:「今月のベスト助っ人賞」を新設し、部署を超えて他者を助けた社員を表彰。
  • 採用活動:採用サイトや面接で「助っ人」の精神を強調。スキルだけでなく、カルチャーにフィットする人材の採用に繋がった。
  • デザイン:ウェブサイトやサービス画面のデザインも、「親しみやすさ」「分かりやすさ」「頼もしさ」をキーワードに刷新。キャラクターを登場させるなど、ユーザーに寄り添う姿勢をビジュアルで表現した。

「助っ人」という共通言語が生まれたことで、社員の行動は劇的に変わりました。

自分の仕事がどう他者の助けになるかを意識するようになり、部署間の連携がスムーズに。

顧客への対応も、マニュアルを超えた提案が増え、顧客満足度はV字回復を遂げました。

Bさんは、会社の魂を言葉にし、共有することの重要性を改めて実感したのでした。

これらの物語は、企業のDNAが、いかに事業の強力な推進力となり得るかを示しています。

あなたの会社にも、まだ光の当たっていない「らしさ」という名の宝物が眠っているはずです。


あなたの会社の「物語」を始めよう

本記事では、「らしさ」の言語化から始まり、企業のDNAを表現するデザインコンセプトを開発し、それがもたらす経営的価値に至るまで、一連のプロセスを旅してきました。

企業の「らしさ」、すなわちDNAは、一朝一夕に作られるものではありません。

それは、創業者の情熱、積み重ねてきた歴史、そこで働く人々の想い、そしてお客様との関わりの中で、時間をかけてゆっくりと醸成されてきた、何物にも代えがたい資産です。

しかし、その価値は、掘り起こし、言葉を与え、カタチにして初めて、本来の力を発揮します。

言語化された「らしさ」は、社内においては社員の心を一つにする旗印となり、社外においては数多の競合の中から「選ばれる理由」を明確に伝える灯台となります。

そして、それを体現したデザインコンセプトは、企業のすべての活動に一貫した魂を吹き込み、顧客の心に深く刻まれるブランド体験を創造します。

特に、リソースが限られる中小零細企業にとって、この「らしさ」こそが、大企業にはない最大の武器となり得ます。

あなたの会社が持つ独自の物語、哲学、こだわり。それらを丁寧に紡ぎ、発信していくこと。

それこそが、広告費を大量に投下するよりも、はるかに効果的で、持続可能なブランディング戦略なのです。

AIのような新しいテクノロジーは、そのプロセスを加速させ、私たちが見過ごしていたかもしれない客観的な視点を与えてくれます。

しかし、忘れてはならないのは、最終的に企業のDNAを定義し、未来への物語を紡いでいくのは、いつの時代も「人」であるということです。

経営者であるあなた自身の想い、そして社員一人ひとりの声に、真摯に耳を傾けることからすべては始まります。

ぜひ、この記事をきっかけに、自社の「らしさ」とは何か、改めて問い直してみてください。

「私たちの会社が、お客様や社会に本当に提供したい価値は何だろう?」
「もし会社がなくなったら、世の中から何が失われるだろう?」
「10年後、どんな会社として記憶されていたいだろう?」

その問いの先に見えてくる答えの欠片こそが、あなたの会社の未来を照らす、かけがえのないダイヤモンドの原石です。

その原石を共に磨き上げ、輝かせる旅を始める準備は、もうできているはずです。


参考文献リスト

敬称略


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