AIと共創するUIデザイン:テクノロジーの波を乗りこなし、ビジネスの核心へ迫る
ここ数年、私たちの周りには「AI」という言葉が溢れかえっています。
朝起きてニュースを見ればAI、ランチタイムの会話もAI、そして夜、眠りにつく前にチェックするSNSでもAIの話題ばかり。
正直なところ、少しお腹いっぱいだと感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
けれど、デザインの現場に身を置く人間として、そしてビジネスの最前線で数字と向き合うマーケターとして、これだけは断言できます。
AIは、私たちから仕事を奪う「敵」ではなく、これまで到達できなかった高みへと連れて行ってくれる「最強の相棒」になり得る存在です。
特に、Webサイトやアプリの顔とも言える「UIデザイン(ユーザーインターフェースデザイン)」の領域において、その変化は劇的です。
今日は、教科書的な機能説明や、小難しい技術論を語るつもりはありません。
少しだけワクワクするような「人間とAIが手を取り合ってモノを作る」という、新しい時代の働き方についてお話ししたいと思います。
経営者の方やマーケティングを担当されている方が、この記事を読み終えたとき、
「なるほど、デザインって単に綺麗な絵を描くだけじゃないんだな」
「AIを使ったデザイン制作なら、うちのビジネスをもっと加速させられるかもしれない」
と、少しでも期待と希望を感じていただけたら幸いです。
「共創」という新しいスタンダード
共創。ともに創る、と書きます。
これまでのデザイン制作の現場を思い出してみてください。
デザイナーが一人でモニターに向かい、悩み、苦しみ、何時間もかけて一つの案を絞り出す。
それはそれで尊いプロセスですし、職人技としての美学があります。
私もそんな時間が嫌いではありません。
深夜、静まり返ったオフィスでマウスを動かす音だけが響く瞬間には、独特の高揚感があるものです。
しかし、ビジネスのスピードは待ってくれません。
市場は常に変化し、ユーザーの好みは移ろいやすく、競合他社は次々と新しい手を打ってきます。
そんな中で、一人の人間の脳みそだけで戦うには、どうしても限界があるのです。
そこで登場するのがAIです。
私が考える「AIとの共創」は、AIに全てを丸投げすることではありません。
「これ、やっといて」と指示を出して終わりなら、それはただの下請け仕事です。
そうではなく、もっと対等な、まるで長年連れ添ったパートナーのような関係性を築くこと。
例えるなら、優秀なシェフと、超人的なスピードで食材を刻み、完璧な火加減を管理できるスーシェフ(副料理長)の関係に近いかもしれません。
- シェフ(人間):どんな料理で客を感動させるか、コンセプトと味の最終決定を行う
- スーシェフ(AI):シェフの意図を汲み取り、膨大なレシピデータから最適な組み合わせを提案し、下ごしらえを瞬時に終わらせる
この二人がタッグを組めば、これまで一皿作るのに1時間かかっていた極上の料理が、わずか10分で提供できるようになるかもしれません。
しかも、味のクオリティは落とすどころか、データに基づいた緻密な計算によって、より洗練されたものになる可能性すらあるのです。
UIデザインの世界でも、これと同じことが起きています。
私たちがAIと手を組む理由は、単に「楽をするため」ではありません。
「人間にしかできない創造的な判断」に、より多くの時間とエネルギーを注ぐためなのです。
デザインの「質」が変わった瞬間
少し個人的な話をさせてください。
私が初めて本格的にデザインプロセスにAIを取り入れたとき、正直に言うと、半信半疑でした。
「どうせ、それっぽいけど魂の入っていない、ありきたりなデザインが出てくるんだろう」と高を括っていたのです。
あるプロジェクトで、ターゲット層が20代前半の女性向けアパレルECサイトのデザインを考案していたときのことです。
私は自分の経験則に基づいて、パステルカラーを基調とした、ふんわりとした雰囲気のデザイン案をいくつか作っていました。
「念のため、AIにも聞いてみるか」
軽い気持ちで、ターゲット層の属性やブランドのコンセプト、そして「少しエッジの効いたモダンな雰囲気も検討したい」というプロンプト(指示文)をAIに投げてみました。
すると、数秒後に出てきたのは、私が全く想像もしていなかった、大胆なタイポグラフィとネオンカラーをアクセントに使った、力強くも洗練されたデザイン案でした。
最初は「いやいや、これは攻めすぎだろう」と思いました。
しかし、冷静になって市場のトレンドデータや、競合の海外サイトを分析してみると、AIが提案したようなデザインが、まさに今の若者層に「刺さっている」ことが分かったのです。
私の頭の中にあった「20代女性=パステルカラー」という固定観念が、視野の狭いものだったかを思い知らされました。
AIは忖度しません。私の過去の成功体験にも縛られません。
ただ膨大なデータの中から、論理的に「最適解に近い可能性」を提示してくれたのです。
この瞬間、私の中でデザインに対する考え方が変わりました。
AIは、私の仕事を奪うライバルではなく、私の視野を広げ、自分ひとりでは決して辿り着けなかったアイデアの引き出しを開けてくれる「壁打ち相手」なのだと。
時間を「買う」という感覚
経営者の方であれば、「時は金なり」という言葉の重みを、誰よりも理解されているはずです。
従来のUIデザイン制作において、最も時間がかかっていたのはどの工程だと思われますか?
実は、完成形を作り上げる作業そのものよりも、「何を作るべきか」を探る探索のフェーズや、無数にある選択肢の中から「これではない、あれでもない」と迷っている時間に、多くのリソースが割かれています。
- レイアウトの検証:ボタンの位置は右がいいか、左がいいか
- 配色の検討:青ベースにするか、緑ベースにするか
- フォントの選定:ゴシック体で力強くするか、明朝体で上品にするか
これらをいちいち手作業で作って並べて比較していたら、日は暮れてしまいます。
けれど、AIを活用すれば、これらのバリエーションを数分で生成し、並べて比較検討することができます。
これは、単なる時短ではありません。
迷う時間を圧縮し、意思決定のスピードを上げること。それこそが、変化の激しい現代のビジネスにおいて、最強の武器になります。
浮いた時間はどこへ行くのか。
それは、もっと本質的な部分へ投資されます。
「なぜこのサイトを作るのか」
「ユーザーにどんな体験をしてほしいのか」
「このデザインで、クライアントの売り上げはどう変わるのか」。
そういった、人間の脳でしか考えられない戦略的な部分に、私たちは全力を注ぐことができるようになるのです。
AIには描けない「行間」を読む力
ここまでAIの凄さを褒めちぎってきましたが、ここからは少しトーンを変えて、「じゃあ人間は何をするの?」という話をしましょう。
むしろ、ここからが本題と言ってもいいかもしれません。
AIは優秀ですが、完璧ではありません。
特に「空気」や「行間」、そして「人の感情の機微」を読み取る能力においては、まだまだ人間に分があります。
UIデザインは、画面上のパーツの配置を決めるだけの作業ではありません。
ユーザーがその画面を見た瞬間に何を感じ、どう行動したくなるか、その心理的な導線を設計することこそが本質です。
例えば、「安心感のあるサイトにしたい」というオーダーがあったとします。
AIに「安心感のある色」と聞けば、高い確率で「青」や「緑」を提案してくるでしょう。
色彩心理学的にも正しいですし、データに基づいた正解です。
しかし、もしそのクライアントが「伝統的な暖かみのある老舗旅館」だったとしたらどうでしょうか。
青や緑のクールな安心感よりも、生成りの和紙のような温かみのあるベージュや、使い込まれた木材のような深みのある茶色の方が、そのブランドにとっての「安心感」を表現しているはずです。
この「文脈」を理解し、微調整を加えるのが、私たち人間のデザイナーの役割です。
- クライアントの想い:創業者の理念や、商品に込められた熱量
- ターゲットの感情:ユーザーがサイトを訪れるときの不安や期待
- 市場の空気感:今、世の中で何が受け入れられ、何が飽きられているか
これらを総合的に判断し、AIが出してきた「論理的な正解」に、「情緒的な正解」を掛け合わせていく。
そうして初めて、人の心を動かすUIデザインが完成します。
AIが描くのは「形」ですが、そこに「魂」を吹き込むのは、いつだって人間の仕事なのです。
「違和感」こそが人間のセンサー
AIが生成したデザインを見て、「なんとなく違うな」と感じることがあります。
この「なんとなく」という感覚。
これこそが、AIには再現できない人間の特殊能力です。
言葉にはできないけれど、バランスが少し悪い気がする。
論理的には整っているけれど、どこか冷たい感じがする。
そういった言語化できない違和感(ノイズ)を察知し、修正を加えることで、デザインは機械的なものから、人間味のあるものへと昇華されます。
私は常々、デザインには「揺らぎ」が必要だと思っています。
定規で測ったような完璧すぎる直線よりも、手書きのような温もりのある線の方が、親しみを感じることがありますよね。
Webデザインの世界でも、あまりに整然としすぎたUIは、時にユーザーに緊張感を与えてしまうことがあります。
あえて少し崩したり、遊び心を入れたりする。
そんな「人間らしい演出」を加えることができるのも、人間のデザイナーだけが持つ特権です。
中小企業の経営者にこそ、AI X デザインが必要な理由
さて、視点をビジネスの現場に戻しましょう。
なぜ、私がこれほどまでに中小企業の経営者の皆様に、AIを活用したデザイン制作をお勧めするのか。
それは、大企業と戦うための「レバレッジ」になるからです。
豊富な資金と人材を持つ大企業は、何十人ものデザイナーやマーケターを抱え、莫大なコストをかけてA/Bテストを繰り返し、最適解を導き出します。
一方で、中小企業や零細企業には、そこまでのリソースはありません。
一人の担当者が、広報も営業もWeb担当も兼任している、なんていうのはザラにある話です。
だからこそ、AIなのです。
AIをパートナーにすることで、一人や少人数のチームでも、大企業の制作チームに匹敵するスピードとクオリティでアウトプットを出すことが可能になります。
AI活用は、リソースの少ない企業が、知恵と工夫で大国に立ち向かうための「ジャイアントキリング」のツールになり得るのです。
例えば、ランディングページ(LP)の制作。
これまでは構成を考え、ライティングをし、デザインを作り、コーディングをする…と、完成までに1ヶ月以上かかることも珍しくありませんでした。
それがAIとの共創によって、プロトタイプ(試作品)までなら数日で形にできるようになります。
浮いた時間とコストで何ができるか。
- 複数の訴求パターンを試す:キャッチコピーを変えた2つのデザインを同時に走らせる
- 素早い改善サイクル:ユーザーの反応が悪ければ、すぐにデザインを修正して再リリースする
- コンテンツへの注力:デザインにかける労力が減った分、中身の記事や写真撮影にこだわる
「完璧なものを時間をかけて作る」時代から、
「ある程度のものを素早く出し、市場の反応を見ながら高速で改善していく」時代へ。
このアジャイルな動き方こそが、これからのビジネスの勝敗を分けます。
そして、そのスピード感を実現できるのは、フットワークの軽い中小企業だからこそなのです。
共創の現場:実際のワークフロー
では、具体的にどのようにしてAIと共創しながらデザインを進めていくのか、私の普段のワークフローを少しだけ覗いてみてください。
もちろん、これは一つの例に過ぎませんが、イメージが湧きやすくなるはずです。
STEP 1:言語化の壁打ち
デザイン制作において最も重要なのは、最初の一歩。
「どんなデザインにするか」を決める前の、「何を解決したいのか」を明確にする段階です。
ここでは、対話型のAIチャットボットが良き相談相手になります。
「30代の働く男性向けのスキンケア商品のLPを作りたい。清潔感と信頼感を出しつつ、忙しい朝でも簡単にケアできる手軽さをアピールしたい。どんな構成が良いと思う?」
このように問いかけると、AIは一般的なマーケティング理論に基づいた構成案をいくつか提示してくれます。
「ファーストビューで悩みに共感し、権威性で信頼を獲得し、ベネフィットで背中を押す」といった具合です。
ここでのポイントは、AIの答えを鵜呑みにしないこと。
「いや、権威性よりも、もっとユーザーに寄り添うような親近感を大事にしたいな」と思えば、そう返します。
するとAIは「それなら、ユーザーの口コミをメインにした構成はどうでしょう?」と別の角度から提案してくれます。
このラリーを繰り返すことで、私の頭の中にあったモヤモヤとしたイメージが、明確な言葉として削り出されていきます。
自分一人でうんうん唸っているよりも、AIと会話をしながら思考を整理する方が、圧倒的に早く、かつ精度の高いコンセプトが固まります。
STEP 2:ビジュアル探索の旅
コンセプトが決まったら、次は視覚的なイメージを固める作業です。
ここでは画像生成AIが活躍します。
以前なら、参考になりそうな既存のWebサイトを何十個も見て回り、「このサイトの色使いと、あのサイトのレイアウトを組み合わせたい」といった具合に、ムードボード(イメージを集めた資料)を作っていました。
今は、言葉で指示を出せば、AIが「まだこの世に存在しないデザイン案」を描き出してくれます。
「ミニマルで洗練されたUI。余白を多めに使い、フォントはサンセリフ体。
アクセントカラーは深いインディゴブルー」
こう入力するだけで、数枚のイメージ画像が出力されます。
もちろん、そのまま使えるレベルではないことも多いですが、「方向性」を確認するには十分です。
「あ、余白はもっと広い方がいいな」とか「インディゴブルーよりも、もう少し明るいブルーの方がWebで見ると綺麗だな」といった気付きが瞬時に得られます。
クライアントとの打ち合わせでも、この手法は威力を発揮します。
「かっこいい感じで」という曖昧なオーダーに対して、その場でAIを使っていくつかのパターンを見せ、「お客様の言う『かっこいい』は、こちらのA案とB案、どちらに近いですか?」と確認することができるからです。
これにより、「出来上がってから『イメージと違う』と言われる」という、デザイナーにとってもクライアントにとっても不幸な事故を未然に防ぐことができます。
STEP 3:人間による「調整」と「仕上げ」
AIがある程度の形を作ってくれたら、いよいよ私の出番です。
ここからは、プロのデザイナーとしての知識と経験、そして感性を総動員して、細部を詰めに行きます。
- ユーザビリティの確認:ボタンの大きさは指で押しやすいか、文字のコントラストは読みやすいか
- 情報の強弱:一番見てほしい部分に自然と目がいくようになっているか
- ブランドの統一感:ロゴのレギュレーションや、ブランドカラーが正しく使われているか
AIは「それっぽい絵」を描くのは得意ですが、1ピクセル単位の厳密なレイアウトや、コーディングを考慮した構造作りはまだ苦手です。
また、日本語の文字詰め(カーニング)などは、やはり人間の手で丁寧に調整しないと、どこか素人っぽい印象になってしまいます。
この「最後の数パーセント」の詰めが、プロの仕事のクオリティを決定づけます。
神は細部に宿る、とはよく言ったものです。
AIが80点までのベースを作ってくれるおかげで、私は残りの20点を120点にするためのこだわりに、全ての情熱を注ぐことができるのです。
マーケティング視点でのUI最適化
経営者の皆様が気にされるのは、結局のところ「そのデザインで売上が上がるのか?」という点でしょう。
美しいデザインが良いデザインとは限りません。
売れるデザイン、成果が出るデザインこそが、ビジネスにおいては正義です。
ここでもAIは強力な武器になります。
例えば、Webサイト上のコピーライティング。
ボタンの文言ひとつでクリック率が変わることは、マーケティングの世界では常識です。
「登録する」と書くか、「無料で試してみる」と書くか。
AIは、過去の膨大な広告データから、どの言葉がユーザーの心に響きやすいかを学習しています。
「このターゲット層なら、もっと緊急性を煽るような言葉の方が反応が良いかもしれません」といった提案をしてくれることもあります。
また、ユーザーの視線予測(ヒートマップ)のシミュレーションも、AIを使えば公開前に行うことができます。
「このレイアウトだと、ユーザーの視線が一番重要な『購入ボタン』に行かずに、脇のバナー画像に流れてしまう可能性があります」といった指摘を、サイトを作る前に得ることができるのです。
これまでは、サイトを公開して、数ヶ月運用して、データを取って初めて分かっていた問題点が、制作段階で潰せるようになる。
これはコスト削減だけでなく、機会損失を防ぐという意味でも非常に大きな価値があります。
デザインを「感性」だけの世界から、「データとロジック」に裏打ちされた科学の世界へと引き上げてくれる。それがAIとの共創の本質的なメリットです。
恐れずに新しい取り組みに飛び込む勇気
ここまで読んで、
「AIを使うのは難しそうだ」
「やっぱり専門家に任せないと無理だ」
と思われた方もいるかもしれません。
確かに、AIを使いこなすにはある程度の慣れやコツが必要です。
プロンプトエンジニアリング(AIへの指示の出し方)という新しいスキルも求められます。
しかし、恐れる必要はありません。
重要なのは、AIを使うことそのものではなく、
「AIを使って何を実現したいか」というビジョンを持つことです。
「もっと顧客に寄り添ったサービスを提供したい」
「自社の商品の魅力を、もっと多くの人に知ってもらいたい」
その熱い想いさえあれば、AIは必ず力になってくれます。
そして、私たちのようなデザイナーは、皆様のその想いを、AIという最新のテクノロジーを使って形にするための翻訳者であり、伴走者なのです。
もし、今お付き合いのある制作会社やデザイナーが、かたくなにAIを拒否し、「昔ながらのやり方」に固執しているとしたら、少し注意が必要かもしれません。
もちろん、伝統的な手法を否定するつもりはありませんが、テクノロジーの進化に目を背けることは、ビジネスチャンスを逃すことと同義だからです。
逆に、「AIを使ってこんな面白いことができますよ」
「AIを活用してコストを抑えつつ、クオリティを上げましょう」
と提案してくれるパートナーなら、その人はきっと、あなたのビジネスを次のステージへと導いてくれるはずです。
これからの時代の「良いデザイン」とは
AI時代において、「良いデザイン」の定義も少しずつ変わってきています。
これまでは、見た目の美しさや、洗練されたグラフィックが重視される傾向がありました。
しかし、AIを使えば誰でもそこそこのクオリティの画像が作れるようになった今、単なる「見た目の良さ」だけでは差別化ができなくなってきています。
これからの時代に求められるのは、「体験の心地よさ」と「物語(ナラティブ)」です。
ユーザーは、商品そのものではなく、その商品を使うことで得られる「未来」や、そのブランドが持つ「世界観」にお金を払います。
WebサイトやアプリのUIは、その世界観を体験してもらうための舞台装置です。
AIが生成した無機質なパーツを並べただけのサイトでは、ユーザーの心を震わせることはできません。
そこに、人間ならではの「おもてなしの心」や、ブランド独自の「ストーリー」が織り込まれて初めて、ユーザーは「この会社、なんかいいな」と感じてくれるのです。
- マイクロコピーの暖かさ:エラーメッセージ一つにも、ユーザーへの気遣いがあるか
- インタラクションの気持ちよさ:ボタンを押したときの動きが、生理的に心地よいか
- ストーリーの一貫性:サイト全体を通して、一つの物語のような流れがあるか
これらは、データだけでは導き出せない、非常に人間臭い領域です。
AIが進化すればするほど、逆説的ですが、こういった「人間味」の価値が高まっていくと私は確信しています。
変わりゆくクリエイターの姿
私自身、AIを使い始めてから、自分の仕事の定義が変わったと感じています。
以前は「絵を描く人」でした。
IllustratorやPhotoshopという道具を使って、画面上のピクセルを操作するのが主な仕事でした。
しかし今は、「体験を設計する人」あるいは「プロジェクトの指揮者」という感覚に近いです。
AIという優秀な演奏家たちを指揮し、クライアントという観客を喜ばせるために、最高の音楽(デザイン)を奏でる。
指揮棒を振るのは私ですが、音を出しているのはAIかもしれません。
でも、全体を統括し、テンポを決め、感情を込めるのは、やはり指揮者である私の役目です。
この変化を楽しめるかどうか。
それが、これからのクリエイターの生存戦略になるでしょう。
そして、発注者である皆様にとっても、そういった視点を持ったクリエイターと組むことが、ビジネスを成功させる鍵になるはずです。
AIはツールであり、主役ではありません。主役はあくまで、そのサービスを使う「人」であり、そのサービスを提供する「皆様」です。
私たちは、テクノロジーに振り回されるのではなく、テクノロジーの手綱を握り、自分たちの行きたい場所へと走らせる騎手でなければなりません。
ある地方の小さなパン屋が、Webサイトで起こした奇跡
理屈ばかり並べても面白くありませんので、ここで一つ、私が実際に関わったプロジェクトの話を少し脚色してご紹介します。
とある地方都市で、ご夫婦で営まれている小さなパン屋さんがありました。
素材にはとことんこだわっているものの、Webサイトは10年前に知り合いに作ってもらったきりの、いわゆる「死んだサイト」状態。
スマホで見ると文字が小さすぎて読めない、そんな状態でした。
「もっと若い人にも来てほしいし、通販も始めたい。
でも、大手にお願いするような予算はないんです」
店主の悲痛な叫びでした。
通常であれば、撮影費、デザイン費、コーディング費と積み上げていくと、どうしても彼らの予算感とは乖離してしまいます。
そこで私は提案しました。「AIをフル活用して、コストを抑えつつ、今の時代に合ったサイトを作りましょう」と。
私たちはまず、AIを使って「ペルソナ(理想の顧客像)」を徹底的に掘り下げました。
「週末、少し遅めの朝食を楽しむ30代の共働き夫婦。
オーガニック志向があり、少し高くても質の良いものを好む」
AIはこの設定を元に、彼らが好む雑誌のテイスト、よく使うSNSのハッシュタグ、そして心に響くキーワードを数十個リストアップしてくれました。
次に、一番の課題だった「写真」です。
プロのカメラマンを呼ぶ予算はありません。
店主がスマホで撮った写真は、どうしても暗く、美味しそうに見えません。
そこで、最新の画像処理AIの出番です。
スマホで撮った少し暗いパンの写真を、AIを使って「自然光がたっぷり入る窓辺で撮ったような明るさ」に補正し、背景のごちゃごちゃした厨房を「清潔感のある白木のテーブル」に差し替えました。
そのパンが本来持っている魅力を、主役を正しく伝えるため、脇役の演出をAIに手伝ってもらったのです。
そして、キャッチコピー。
店主の「毎朝4時に起きて、生地の機嫌を伺いながら焼いています」という言葉をAIに入力し、いくつかのバリエーションを出させました。
その中から選んだのは、『おはよう、〇〇〇〇〇〇〇〇なるパン。』というコピー。
この言葉と、AIで補正されたシズル感たっぷりの写真を、シンプルなレイアウトで配置しました。
結果はどうだったと思いますか?
リニューアルオープン後、通販の注文は前年比で500%に跳ね上がりました。
「サイトの雰囲気が素敵で、食べてみたくなりました」というコメントがSNSに溢れました。
このプロジェクトで私が手を動かした時間は、通常の半分以下です。
でも、店主とのヒアリングや、どんな店にしたいかという「想い」の共有には、通常の倍の時間をかけました。
AIが作業を肩代わりしてくれたからこそ、私たちは「ビジネスの本質」に向き合うことができたのです。
これが、中小企業こそAIデザインを取り入れるべき、生きた活用方法です。
「平均点の罠」と「金太郎飴」からの脱却
成功事例をお話ししましたが、もちろんAIは魔法の杖ではありません。
そこには落とし穴もあります。
その最たるものが、「平均点の罠」です。
AIは、過去の膨大なデータを学習し、その中から「最も確率の高い答え」を導き出します。
つまり、放っておくと「どこにでもありそうな、無難なデザイン」ばかり生成してしまうのです。
最近、Webサイトを見ていて「あれ、このサイト、どこかで見たことあるな」と思うことはありませんか?
もしかするとそれは、AIが生成したテンプレートや素材を、そのまま思考停止で使っているからかもしれません。
私たちはこれを「金太郎飴デザイン」と呼ぶことがあります。
どこを切っても同じ顔。綺麗だけど、記憶に残らない。
ビジネスにおいて、記憶に残らないというのは、存在しないのと同じです。
AIは「80点の優等生」を作るのは得意ですが、「120点の変人」を作るのは苦手です。しかし、市場で突き抜けるのは、いつだって個性的な「変人」のようなブランドです。
だからこそ、私たち人間の「ノイズ」が必要なのです。
AIが提案してきた綺麗な配色のバランスを、あえて少し崩してみる。
整然としたレイアウトの中に、手書きのイラストをポンと置いてみる。
論理的には説明がつかないけれど、なぜか目が離せない。
そんな「違和感」を意図的に作り出すこと。
これが、AI時代に埋没しないための唯一の方法です。
「AIが作ったものを、人間が壊す」
この破壊と再構築のプロセスこそが、オリジナリティを生み出す源泉になります。
法的なリスクと向き合う
経営者の皆様にとって、避けて通れないのが「著作権」や「商用利用」の問題でしょう。
「AIで作った画像は、著作権フリーなのか?」
「他社のデザインをパクったことにならないか?」
ニュースでも度々取り上げられる話題ですが、結論から言えば、まだ法整備が追いついていない過渡期にあります。
だからこそ、私たちは慎重にならなければなりません。
私がクライアントにAI生成素材を提案する際は、以下のルールを徹底しています。
- 商用利用可のAIツール選定:利用規約が明確で、ビジネス利用が許可されているツールのみを使用する
- 生成過程の記録:どのようなプロンプト(指示)で生成したかを記録し、オリジナリティを証明できるようにする
- 類似性のチェック:生成された画像が、既存の有名なキャラクターや作品に酷似していないか、画像検索で確認する
特に「画像生成AI」に関しては、そのまま使うのではなく、あくまで「素材」として利用し、デザイナーが手を加えて加工することを基本としています。
そうすることで、著作権的なリスクを低減しつつ、独自性を担保することができます。
「AIならタダで画像が作れる」と安易に考えるのは危険です。
リスク管理も含めて提案してくれるパートナーを選ぶことが、会社を守ることに繋がります。
One to One デザインの未来
少し先の未来の話をしましょう。
今、私たちが作っているWebサイトは、誰が見ても同じ画面が表示されます。
Aさんが見ても、Bさんが見ても、トップページには同じ画像と同じキャッチコピーが並んでいます。
しかし、AIとUIデザインの融合が進めば、この「当たり前」が崩れ去るでしょう。
「ハイパー・パーソナライゼーション」と呼ばれる世界です。
例えば、初めてそのサイトを訪れた人には、「安心感」を与えるために会社の歴史や実績を大きく表示する。
一方で、もう何度も購入しているリピーターの人がアクセスした時には、面倒な説明は省き、「いつもの商品」をワンタップで購入できるボタンを最上部に表示する。
さらに言えば、デザインのトーン&マナーすら、ユーザーの好みに合わせて変化するかもしれません。
文字を読むのが苦手なユーザーには、動画中心のUIに自動的に切り替わる。
高齢のユーザーには、文字サイズを大きくし、コントラストを強めた見やすいUIを提供する。
「サイトに合わせて人が動く」のではなく、「人に合わせてサイトが変化する」。これがAI時代のUIデザインの究極形です。
これは夢物語ではありません。
すでに一部の先進的なECサイトやアプリでは、AIがユーザーの行動履歴をリアルタイムで解析し、表示するバナーやおすすめ商品を出し分けています。
デザインのパーツさえ用意しておけば、AIがその人に最適なレイアウトを瞬時に組み上げて表示する。
そんな「流動的なWebサイト」が、これからのスタンダードになっていくでしょう。
その時、私たちデザイナーの仕事は「一枚の完璧な絵を作る」ことから、「無数のパターンの組み合わせルールを作る」ことへとシフトしていきます。
経営者の皆様も、「どんなサイトを作るか」ではなく、「どんな体験を、誰に届けたいか」という、より戦略的な視点を持つことが求められるようになります。
発注者としての「AIリテラシー」
ここまで読んでくださった皆様は、きっとAIに対する期待感が高まっていることと思います。
では、実際にデザイン会社や制作会社に発注する際、どのようなスタンスで臨めば良いのでしょうか。
まず大切なのは、「丸投げ」をやめることです。
「いい感じにしておいて」
「かっこいいサイトを作って」
これまでの人間相手の仕事なら、デザイナーが気を利かせて(あるいは忖度して)、なんとなく形にしてくれたかもしれません。
しかし、AI時代においては、この曖昧さが命取りになります。
AIは言葉をそのまま受け取ります。
「かっこいい」の定義が、皆様とデザイナーとAIの間でズレていれば、出てくるアウトプットは悲惨なものになります。
必要なのは「言語化」です。
- ターゲットの明確化:誰に(年齢、性別、趣味、悩み)
- 目的の具体化:何をしてほしいのか(購入、問い合わせ、資料請求)
- 感情の指定:見た人にどう感じてほしいか(ワクワク、安心、憧れ、親近感)
これらを、できるだけ具体的な言葉にする能力。
これこそが、これからの発注者に求められる「AIリテラシー」の本質です。
何も、プログラミングや専門用語を覚える必要はありません。
自社のビジネスについて、誰よりも深く理解し、それを熱量を持って言葉にする。
その「生きた言葉」さえあれば、私たちはそれを最強のプロンプト(指示書)に変換し、AIというスーパーマシンを駆動させることができます。
「言葉にできない想い」は、AIには届きません。AI時代の共創とは、まず人間同士が腹を割って対話することから始まるのです。
コストに対する考え方の転換
AIを活用すれば、制作コストは下がるのでしょうか?
答えは「イエス」であり、同時に「ノー」でもあります。
単純な作業、たとえば画像の切り抜きや、バリエーション出しなどの工数は劇的に減ります。
その分のコストは下がるでしょう。
しかし、その分、浮いた予算を「クオリティの向上」や「マーケティング施策」に回すことをお勧めします。
「AIで安く作って終わり」では、非常にもったいない。
「AIで効率化して浮いた予算で、プロのカメラマンに商品のキービジュアルだけは撮ってもらおう」
「浮いた時間で、もっと詳細なユーザーインタビューを行って、サイトの構成を練り直そう」
このように、AIによって生まれた余白を、人間にしかできない付加価値の高い活動に再投資する。
トータルの予算は変わらなくても、出来上がる成果物の「戦闘力」は段違いになります。
コストカットのためではなく、バリューアップのためにAIを使う。この視点を持てる経営者こそが、勝者となります。
デザイン制作の現場から消えるもの、残るもの
AIの登場によって、デザインの現場からは「単純作業」や「根性論」は消えつつあります。
徹夜で100個のバナーを作り続けるような仕事は、もう人間がやるべきことではありません。
一方で、絶対に消えないもの、むしろ重要性が増しているものがあります。
それは「美意識」と「倫理観」です。
AIは何でも作れてしまいます。
フェイク画像も、差別的な表現を含んだ文章も、悪意のあるUIも、指示さえあれば躊躇なく生成してしまう危うさを持っています。
だからこそ、最後の砦として人間が立ちはだかる必要があります。
「この表現は、誰かを傷つけないか?」
「このデザインは、本当にユーザーのためになっているか?」
「私たちのブランドとして、これは胸を張って世に出せるものか?」
そう問いかけることができるのは、心を持った人間だけです。
AIは「効率」を追求しますが、私たちは「幸福」を追求します。
デザインの目的が、最終的に「人の幸せ」にある以上、その舵取り役は人間でなければならないのです。
明日からできる、小さな一歩
いきなりWebサイトを全面リニューアルするのはハードルが高いかもしれません。
でも、今日からできる「AIとの共創」はたくさんあります。
例えば、社内のプレゼン資料。
いつも文字ばかりのスライドになっていませんか?
画像生成AIを使って、そのスライドのテーマに合った挿絵を一枚入れてみてください。
「未来のオフィス」という言葉を、AIに描かせてみてください。
それだけで、聞き手の反応が変わるはずです。
あるいは、新商品のネーミング。
一人で腕組みをして考えるのではなく、チャット型AIに「この商品の特徴は〇〇です。親しみやすくて覚えやすいネーミングを20個考えて」と投げてみてください。
きっと、自分では思いつかなかったアイデアに出会えるはずです。
そんな小さな「共創」の積み重ねが、やがて大きなビジネス変革へと繋がっていきます。
デザインは、デザイナーだけの特権ではありません。
AIというパートナーを得た今、すべてのビジネスパーソンがクリエイターになれるチャンスが目の前に広がっています。
この長い記事を通して、私が伝えたかったことは一つです。
テクノロジーを恐れず、面白がってください。そして、私たちデザイナーと一緒に、AIという新しい絵筆を使って、あなたのビジネスというキャンバスに、まだ誰も見たことのない素晴らしい未来を描きましょう。
AIと共創するUIデザイン。
それは、効率化の手段であると同時に、人間が人間らしさを取り戻し、創造の喜びに再び出会うための、希望の物語なのです。
もし、あなたの会社のWebサイトが、ただの情報の羅列になっているとしたら。
もし、もっと顧客の心に響く体験を届けたいと願っているとしたら。
ぜひ一度、AI活用に精通したデザイナーに声をかけてみてください。
きっとそこから、新しい景色が見えてくるはずです。
次なるステップへ
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
AIとデザインの関係性、そしてそれがビジネスにもたらす可能性について、少しでもイメージを膨らませていただけたなら幸いです。
最後に、私から一つだけ提案があります。
今、お手元にあるスマートフォンで、自社のWebサイトを開いてみてください。
そして、こう問いかけてみてください。
「このサイトは、私の会社の“今の熱量”を、正しく伝えられているだろうか?」
もし、少しでも「NO」と感じたなら、それが変革のタイミングです。
出典先リスト
本記事を作成するにあたり、UI/UXデザイン、プロダクトデザイン、デザイン経営、およびAIとクリエイティブの将来に関する複数の専門書籍、業界レポート、テクノロジーメディアの分析記事を参考にしました。
- デザイン思考(デザインシンキング)およびユーザー中心設計(UCD)に関する専門文献:リサーチと共感のプロセス、問題解決の枠組みについて参考
- 主要なデザインツール(Figma, Sketch, Adobe XDなど)の最新の機能アップデート情報および開発者向けのガイドライン:デザインシステムの構築技術を把握
- ウェブアクセシビリティ(WCAG)およびインクルーシブデザインに関する国際的なガイドライン:デザイン倫理と社会的責任について言及
- AI画像生成、デザインシステム自動化AI(例:GPT-4, Midjourney)の能力と限界、デザインプロセスへの組み込みに関する技術系メディアの記事:AI協業戦略を考察
- デザインマネジメント、デザイン経営に関するビジネス書および研究論文:AI技術を活用して戦略的優位性を構築する
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